売却物件をお任せいただいているある戸建て住宅の法令上の制限調査にて、ちょっと困ったことが。当物件が所在するのは第一種低層住居専用地域。原則として低層住居しか建築が許されない、閑静な住宅街です。建蔽率および容積率は、それぞれ40%と80%。つまり、仮に敷地面積が100㎡だったとしたら、そこに建てられる建物の建築面積(建坪)が40㎡、延べ床面積が80㎡ということになります。同じ住居系の用途地域でも、スーパーなどの店舗の建築が許されている第一種住居地域の建蔽率・容積率はそれぞれ50%~80%・100%~500%ということで、第一種低層住居専用地域の建蔽率・容積率がいかに厳しく制限されているかがお分かりいただけることでしょう。つまり、建物は広々とした敷地に余裕をもって建ててください!第一種低層住居専用地域では、暗にそのような要求が突き付けられているということになります。
さて、本物件はどうでしょう?敷地面積は115㎡なので、ここに建てることができる建物の建築面積は115㎡×40%=46㎡、延べ床面積は115㎡×80%=92㎡ということになります。ところが、実際には建築面積59㎡、延べ床面積104㎡の建物が建っているではないですか!つまり、そこに建っているのは現行の制限を超えた建物。だからといって、直ちに違法建築物ということにはなりません。どういうことかというと、建築当時は合法だった建物がその後の法改正などによって、法に適合しない建物になってしまったということも考えられます。そのような状態の建物を「既存不適格」と呼びます。
違法建築か既存不適格かをどうやって判断するのか?それは、建築当時の検査済証を確認することで判断することができます。検査済証は、完成した建物が建築確認申請の際に提出した図面どおりに建築されていることが確認されなければ発行されません。そして、建築確認申請の際に提出する図面は、当然順法性のあるものでなければ検査を受けることはできません。よって、検査済み証の存在さえ確認できれば、建築当時は適法の建物であったということが証明できるのです。
しかし、役所で調査したところ、今回のケースでは検査済み記録が発行されていませんでした。すなわち、建築当時は適法な建物だったのか、それとも建築当時から違法だったのか、それを判断する材料として期待していたものが手に入りません。このような場合、「建蔽率オーバー・容積率オーバー(再建築の際は同じ規模の建物は立てられない可能性があります)」という表記を加えることで、調査義務を果たしたということになるのかと思います。
同じようなケースで困っている方に向けて、また、不動産業に関わる備忘録としての今回のコラムでした。